ささぶね

2023

流れに身を任せる書体

書において、前後の文字が繋がる「連綿」は文脈や言葉には依存せず、文字そのものの形の前後の組み合わせと、書き手の感性によって発生する。欧文の筆記体のように、常に単語ごとに筆跡が途切れるわけではなく、単語と単語の間がそのまま連綿することもあれば、単語の途中でも途切れることもある。
 「ささぶね」は『元暦校本万葉集』とその同時代の作品に綴られたかな文字を参考に制作した。『元暦校本万葉集』は複数の能書によって書かれた作品である。複数人の書を参考にすることで、個人の癖や特徴ではなく、連綿そのものの特徴を書体に持たせることができるのではないかと考えこの作品を選んだ。
 この書体はどんな文字の並びであっても、連綿させるかさせないかを選択できる。しかし、ただ筆が繋がっているだけでは「連綿らしさ」はない。連綿を観察すると、後ろの文字の始筆の位置によって形の傾向が見られる。揺れながら進む全体の筆の運びに「連綿らしさ」があると考え、起筆と収筆を複数制作することにした。

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連綿のためのユニットシステム:ひとつの文字を2つに分割し、起筆を「連綿あり/連綿なし」の2種、収筆を「連綿なし/右に連綿/中央に連綿/左に連綿」の4種を掛け合わせることで8種のユニットを制作した。このユニットシステムによりいかなる文字が上下にあったとしても必ず連綿することができる。
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連綿によるグリッドシステム:ベジェ曲線のハンドルの角度を統一することで、自然な連綿の流れを目指した。角度は白銀比の用紙(A判・B判)の対角線と一致させ、文字と用紙に共通性を持たせた新しいグリッドシステムを考案した。
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収録字種:収容字種ひらがな(48×8種)+踊り字(8種)の合計392種。濁点、半濁点がつく文字は連綿を途絶えさせてしまうため、音が濁る字は、濁点半濁点がつかないものと置き換えられる。
 実装はフォント自体に組み込めるプログラムであるOpenTypeを使用して、前後の文字からユニットが自動的に切り替わるようにした。また、文字の間に極小スペースを挿入することで連綿を断ち切ることもできる。
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LET'S TYPE!