Blackbox of yogurt

制作方法

ルール01
1 外観の変化
ヨーグルトのあの独特の質は、牛乳に乳酸菌を加えて適切な温度で発酵させることで形成される。その変化を観察するために、発酵時間を5分づつ変えたヨーグルト(牛乳)を9時間分用意し、掬って取り出したものを撮影し並べた。

撮影の様子

撮影の様子。ヨーグルトの内部をスプーンで掬いコップの裏に載せて撮影した。


伝統的なヨーグルトはプルガリアの乳酸桿菌のLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus(ラクトバチルス デルブリッキィ 亜種 ブルガリクス)と好熱性の連鎖球菌Streptococcus thermophilus (ストレプトコッカス サーモフィラス)の2種類の乳酸菌を使って作られる。

ブルガリア菌 サーモフィラス菌

左:ストレプトコッカス サーモフィラス
右:ラクトバチルス デルブリッキィ 亜種 ブルガリクス


2つの乳酸菌は42℃前後で最も活動する。乳酸菌は牛乳に含まれる乳糖を乳酸に変化させ、カゼインを始めとするたんぱく質を分解する。こうして乳酸発酵が進み凝固したものをカード(凝乳)、分離した水分をホエイ(乳清)と呼ぶ。2種類の乳酸菌が助け合うことで、たった数時間のうちにヨーグルトは完成する。

発酵の様子

発酵の様子。密閉した容器に乳酸菌を加えた牛乳が100mLずつ入っている。

制作方法

ルール02
2 色の変化
変化するのは質だけではない。ヨーグルトは牛乳と同じ白色のイメージが強いが、ヨーグルトが固まる上でにじみ出る半透明で黄緑色の液体によって淡く色づく。

牛乳の色ではない

掬い上げたヨーグルト。まだ固まりかけだが、すでに牛乳の色ではない。


牛乳のたんぱく質はカゼインとホエイタンパク質に大別される。カゼインは牛乳のたんぱく質の約80%を占め、乳酸によって凝固するのはこのカゼインである。その凝固物を取り除いた後に残る固まらなかった液体部分をホエイ、そこに含まれるたんぱく質をホエイタンパク質という。

ホエイ抜き

ホエイを抜いたヨーグルト。水分が抜けたヨーグルトはクリームチーズのようになる。


ホエイは99%は水分で、残りの 1%に牛乳の栄養成分が含まれている。ホエイは「ホエイパウダー」として栄養補助食品にもなるほど栄養成分が豊富である。

抽出ホエイ

ヨーグルトから抽出したホエイ。

制作方法

ルール03
3 味の変化
見た目の変化だけではなく、当然味も変化する。ヨーグルトの味は乳酸菌の代謝による乳酸の酸味である。はじめは牛乳の味がするが、徐々にあのヨーグルトの酸味を感じるようになる。

食べ比べている様子

食べ比べるヨーグルト。数字は発酵時間。


乳酸菌はたった数時間で牛乳に含まれる乳糖を乳酸に変化させる。そもそも乳酸菌とは糖(ブドウ糖、乳糖など)を分解して多量の乳酸をつくる細菌の総称である。広義では「糖を分解して乳酸など多量の酸を作るが、腐敗産物は作らない細菌」と定義されている。

掬ったヨーグルト

食べ比べの様子。発酵時間を隠して食べることで先入観を無くす。


乳酸菌は糖を分解することで、エネルギーを得る。これは他の生物でいうところの呼吸であり、乳酸はその代謝でしかない。人間はその代謝を利用し多くの発酵食品を作り出した。

並べる

酸味の強さ順に並び替えたヨーグルト。この順番に色をあてる。

制作方法

ルール04
4 カゼインの変化
ヨーグルトの固まりは牛乳にもともと含まれるカゼインというたんぱく質だ。牛乳のときにはカゼイン同士が反発しあって存在している。しかし、乳酸菌が生成する乳酸によってカゼインはそのバランスを失い結合して沈殿する。

小さな固まり

カゼインが結合してできた小さな固まり。やがて全体が凝固する。


カゼインミセルは反発しあっているため沈殿することはないが、乳酸によりpH4.6を超えるとその反発力が失われ、カゼインミセルが結合を始める。

細かな固まり

ヨーグルトから滲む液体の中に細かい固まりが浮いている。


カゼインはカゼインミセルと呼ばれる小さな球形の粒子として牛乳中に浮いている。牛乳が白く見えるのはこのカゼインミセルが原因である。光を受け、液中に分散した粒子がその光を乱反射することで相対的に白色に見えている。これをチンダル現象という。雲や波が白く見えるのも同じ原理である。

簡単に組織が崩れる

全体が固まり始めたときのヨーグルトを押しつぶしたときの様子。
結合がまだ緩いため、簡単に組織が崩れる。